空色の瞳にキスを。
この話を8年間も聞かされ続けては、語り部のように語ることができてしまう。

「そして二人は、末永く幸せに暮らしましたとさ。」

お決まりの文句で締めくくられたナナセの語る昔話に、アズキは感嘆の声をあげた。

「へぇ…。」

そう呟くアズキは『リーゼロットの翼』という昔話を全く知らなかった。

けれど、優しいお伽の世界は、夢見る少女共通のもので。
そこに夢を馳せて、聞いていたアズキまで幸せな気分に浸る。

「なんだか…いいね…。」

アズキも無意識に隣の彼女とある少年とをその物語に重ねて、口元を緩める。
先見の少女にとっては聞いたことのない話だったけれど、想像は容易だった。

─白い銀髪の彼女に、白い羽根が生えたら。

「ナナセが天使だって言われても、私素直に頷けちゃうかも。」

カップを持たない右手で隠した口から軽く小さな笑い声が漏れた。
笑顔のまま左隣を振り向けば、湯気に微かにぼかされた視界の中で眉を下げた親友の表情が見えて。

耐えるような、その悲しい瞳に、明るい言葉が迷子になった。
いつもの彼女の反応ではないことくらいアズキでも分かる。

─どうして、そんな瞳をするの。

言葉がいつもよりも大分少ない彼女の振る舞いから、アズキはピースを繋げていく。

─どうしてこんな話をしたの。


「─ねぇ、ナナセ。ナナセの好きな人は、」


親友に、何気なく迫ろうとしている自分に気付いた先見の少女はらしくなく言い淀む。
けれどそこまで音として成されていれば、聞き手にも続く言葉は予想できて。

きゅ、と薄い唇が緊張して横に結ばれて。
何かに耐え潤んだ瞳が、伏せられる。

すっと一度扉に流された空色は、鍵の魔術を確認して手の中の琥珀を見つめ、唾を飲み込む。
小さなティーカップに隠せるわけない赤い頬を隠して、そのまま頷いた。

「やっと、気付いたのね。」

その言葉にそろそろと顔を上げたナナセは、ふわ、と笑う少女の微笑みと対面する。
ナナセは恥ずかしさがこみ上げてきて髪で瞳を隠し顔を背ける。
やっと、二人の関係が前に進むと思うと、アズキの口元は緩む。
< 303 / 331 >

この作品をシェア

pagetop