空色の瞳にキスを。
「けれど、ナナセの魔力は特徴があるから私みたいな人がいたら気付かれるよ。」

アズキの言葉にナナセは顔色を変える。

「あ、ほんとだ…。」

アズキの魔術は戦闘向きではないが、彼女の祖母のように魔力を読むこともできれば、それのもとを探すこともできる。

彼女の継いだのは、人や物の魔力を追う力。
ただその場に宿る力から過去や未来を知るだけでなくて、力を追うことも可能なのだ。

莫大な量の水色した魔力を持つ人間なんてそうそういない。

ということは、アズキのような人間が相手側にいれば、彼女など追うのは容易いことなのだ。
そういう点で、忍び込むナナセから見て、アズキの持つような力は脅威になるのだ。

ナナセはアズキのような魔術師を勘定に入れるのを忘れていた。詰めの甘い自分に悔しくなる。

「でも、そんな人いるの?」

トーヤの一言で、はっとする。

「あたし、長い間ずっと国を回ってきたけれど、強い先見を持つ人はソライの一族の他には知らないわ…。」

珍しい力のはずなのに、近くにいすぎて忘れていた。
そんな魔術師が彼女一人だけなら、対策を考えなくて済む。

けれど、残念なことに、この国にはいくらかいたことを思い出した。
先見の力を持つ一族は、もうふたつほど知っている。しかし、貴族階級の人間達だったから、長い間会っていない。
貴族の人間の噂は逃げ回っていた最中も出来るだけ拾おうと努めていたが、力の強い子が生まれたなんて噂は一度も耳にしていない。

たとえそこにそんな魔術師がいても、先見の力を持つ者すら珍しいのに、アズキほど力が強い人間など他にはいないだろう。

「そうね、私もアズキのような凄い力の持ち主は初めて見たわよ。」

スズランも頷く。

少し開発されただけといっても、元々の能力が強くなければ高みまでは到達はできない。

彼女の力の尊さを知らないのは、彼女自身だけ。

「私の力は…そんなに珍しい?」
誉められたような心地が久し振りで、遠慮がちに尋ねる茶髪の少女に、スズランが安心を誘う笑みを広げる。

「ええ、貴女ほど強く純粋な先見は知らないわ。」

「その言い方って、闇の色をした先見が、他にもいるってこと?」

スズランの口ぶりに不安を覚えたのはナナセだった。

「他にはいないくらい珍しい力なんだろ?
まだ他にもいるのかよ…!」

ため息をついて大げさに椅子にもたれ掛かったトーヤに、スズランは困ったように笑う。

「ええ、私の知っている中ではひとりね。」

「知り合い…?」

なんとなくそう思ったナナセは、様子を窺うようにそっと尋ねる。

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