空色の瞳にキスを。
戦争は、国のいがみ合いは、優しい人を化物に変える。


一緒に戦ってくれた幼馴染みが、自分の目の前で人を刺したのだ。

「大事な人とまた笑うために、どうしても生きて帰りたい」

そう言って、初めて戦場に立った彼は、自分の目の前で泣いたのだ。綺麗な頬を血で汚したあの泣き顔が、忘れられない。



今日また春の戦いを自分から示したせいだろうか、スズランは2年前の自分を思い出してペンを動かす手が止まる。夜の日課の日記を一時放り出して、羽ペンをそっと紙の上に転がす。
瞼を閉じれば鮮やかに映し出せてしまう程に脳裏に焼き付いたその映像。

自室で机に向かっていた彼女は溜め息をこぼす。

「そこではなくて、ここに私はいるのよ…。」

──血だらけの戦場ではなくて、大事なものだらけの、ここに。


ランプが作るぼんやりとした影が自分の手が赤く染まっているような錯覚を起こさせる辺りもうどうしようもない。

もうあれから2年経つ。
新しい魔術が開発され、左遷された後に起きたダムニーとの戦は、酷いものだった。

ルイ国建国の前も後も、そして今の国も見ている長寿の一族に、今の国内はルイ初代国王が来る前と変わらない程だと嘆かせたほど。

魔術の発達で世界の荒れは隠せているようだが、今の国はめちゃくちゃだ。

魔術という道具のあるこの世界での戦いは一般に、軍の兵士や魔術師といったごく一部の人間がかり出され、力を持たない一般人は参加しないようにできている。
人口に占める割合は多かれども、力のない一般人がどれだけいようとも、魔術師には遠く及ばないからだ。

長寿の一族に聞いた話では、ルイの国の出来る遥か昔、ここは鉱物の採れる土地として有名だったらしい。

昔から金属を魔錬成する技術があった国々が、戦いや生活に必要な金属をめぐって争い、戦火の絶えない土地だったという。
そんな土地は掘り尽くされ、国々が放棄した泥まみれの地を田畑に変えたのが我ら初代国王だったとかいう伝説は誰でも小さい頃から聞かされる。
けれどその頃この地にいたのは、忌まれた能力の持ち主であったり、戦で難民となった者たちばかりで、汚い地でもいさかいのない小さな幸せを持っていた者たちばかりだった、なんて話はその一族から初めて聞いた。

彼らは穏やかに新しい国王を歓迎した。


ルイ国王は見目麗しく、何年経っても綺麗な方で、政治も武芸もそつなくこなされたらしい。
そんなルイ様が国王としておつきになられてからは全く戦いが起こらなくなって。
そうすれば戦いにかり出されるからと敬遠されがちだったが、国の発展には欠かせない魔術師を職業とする民も次第に増え、国が豊かになった。

なのに、ルイ国王、カイ国王が殺されて、次に王座へついたあの王は国を昔のように荒らしていると長命の一族は言う。

魔術も発達しており文明は今の方が高度であろうが、世界はどんどん荒んでゆく。

またもう一度、ルイの国を変える誰かが必要だのぅ、と遠い目をした老婆を思い出す。

< 316 / 331 >

この作品をシェア

pagetop