空色の瞳にキスを。
アズキの家の一室を借りてハルカは診療所を開かせてもらっている。
小さな診療室に、ハルカがたくさんの機材を自費で買い込み、置いている。

前に訪ねた街でも魔法医術師をしていた。
そのため、大きな機材を買う資金を工面することに関しては困ることはない。
ただ、無駄遣いをしないで毎日を慎ましく過ごすこともあり、懐は暖かかった。
そのお金で作った小さな小さな診療室。

その診療室で、今日の一番目の人に向かい合う。

「……おはようございます。ハルカさん。」

リルの父は、気まずそうに挨拶をする。

「おふぁほうごぶぁいまふ。
リルのおぶぃふぁん。」

まだ九時にはなっていないが、少し早めに来ていたリルの父は時間を早くしてもらった。
それは良いのだが。

「……出直して来ようか?」

「はぁ。ごちそうさまでした。大丈夫です。」

「……はぁ、そうですか。」

律儀に手を合わせたハルカにリルの父はなんとも腑に落ちない顔をしている。

「それで、おじさんどうされたんですか?」

気を取り直し、居住まいを正したハルカは、幾つか問答を交えながら彼の容態を診ていく。
彼女は納得したのか、ふわりと笑った。

「大丈夫です。
他のところも調べてみたんですけどなんともありませんし、貧血気味なんじゃないですか?」

そう言ってハルカは聴診器を置いた。

「栄養にも気を付けてくださいね。あ、でもちょっとだけ腕を貸してくださいね。」

小さく微笑むハルカはそっと手を差し出し、リルの父の腕に触れる。
ハルカは顔を下に向けて、人に見えないようにして彼の腕に魔力を注ぐ。
ハルカの瞳が青く光るのは、向かい合っていたリルの父は嫌でも分かった。

淡い蛍のような光は、次第に消えていく。

「ハルカさん……?」

リルの父はわずかに動揺し、彼女に聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いたけれど、彼女は反応しない。
しばらくして顔を上げたハルカは茶色の瞳を見せた。

「はい、もう大丈夫ですよ。」

「ありがとう。助かるよ。」

普段と変わらない笑顔のハルカに男はほっと安堵する。
先程までの彼女は一瞬別人のようだったから。

「はい、じゃあ、お仕事頑張るのも大事ですが、体も気を付けてくださいね。

──次の方ー。」

ハルカは晴れ晴れとした顔で少し声を張り上げた。
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