空色の瞳にキスを。
ギィ、と階段の軋む音と共に部屋から出てきた子供たちに、大人は目を見張る。
娘と息子の間に立つのは、いつも街の張り紙でお馴染みの賞金首だった。そんな王女と共にいる、アズキとトーヤに大人は慌てて声を張り上げた。
「何してるの!早く離れなさい!」
けれど子供たちは離れず、アズキは大声には驚きはしたものの、落ち着いて答えた。
「ううん、大丈夫。何も心配ないよ。」
「どうして!アズキ、離れなさい!ナナセだぞ!?トーヤ!」
目の前で慌てるアズキの父コルタに、ごめんなさいとナナセは小さく呟いて、自身に魔法を掛け始める。姿を変える彼女に、大人達は声を失った。彼女が現れた時よりも、驚いた顔が目の前に在った。
「……ハルカ……ちゃん?」
小さな声を絞り出してエリが見詰めるのはどこか憂いを秘めた、見慣れた姿だった。
「そうです。……あたしは、ハルカです。
今まで隠してきてごめんなさい。」
『ハルカ』は、大人たちの方へ深々と頭を下げる。
わざわざ正体を現したその不利さは、エリには利益のための巧みな嘘とは思えなかった。けれど、本当だとも思えなかった。それでもナナセの伏せた青の瞳の中に、誰になんと言われようとも曲げないような強い光がエリにも見えた。
「ナナセ王女なのね……。」
「はい。あたしが、ナナセです。
首狩りがこの町に来るそうですし、追い付かれないようにここを出ます。追い付かれて捕まったら、その町で迷惑がかかりますから。」
「じゃあ、黙って逃げたら良かったじゃないか。なぜ、それを今話した?」
トーヤの父のもっともな言葉に大人たちの鋭い瞳八つが彼女を射抜く。
「それは……アズキたちに伝えてしまったからです。」
アズキの様子なら遠からず両親に話したであろう。それならば、本人が伝えた方が伝えたいことも伝わるとも思ったから。
一呼吸置いて伏せた瞳を上げて、話し始めた。今、伝えないといけないことがたくさんあった。
昔の裏切りと、濡れ衣のような指名手配。それから、この街が好きだと。うまく表現できたか分からない、けれど言いたかった言葉を口に乗せた。
「……信じてなんて、無理なことは言わないです。
だけど、あたしはそういう昔があって、今ここにいます。」
重苦しい空気が部屋中を包む。皆それぞれ言いたいことがあったのに、言葉にすることを躊躇った。
「王女さま。」
エリがまた俯いたナナセを呼ぶ。ハルカちゃん、と呼ばれた事が遠い昔の事のよう。はいと、掠れた声でしか返せなかった。
「その話が本当でも、そうでなくても、私達はもう一緒に居ることができないわ。
本当ならば、私達は命を狙われるわ。嘘であれば、あなたが賞金首ということになる。
分かって……くれるわね?」
彼女は彼女で、家族を守る母の瞳をしていた。
「はい。分かっています。今までありがとうございました。」
出ていくつもりで、また追い出されるのは覚悟の上だった。だからエリの目を見て少し笑ってお礼が言えた。
娘と息子の間に立つのは、いつも街の張り紙でお馴染みの賞金首だった。そんな王女と共にいる、アズキとトーヤに大人は慌てて声を張り上げた。
「何してるの!早く離れなさい!」
けれど子供たちは離れず、アズキは大声には驚きはしたものの、落ち着いて答えた。
「ううん、大丈夫。何も心配ないよ。」
「どうして!アズキ、離れなさい!ナナセだぞ!?トーヤ!」
目の前で慌てるアズキの父コルタに、ごめんなさいとナナセは小さく呟いて、自身に魔法を掛け始める。姿を変える彼女に、大人達は声を失った。彼女が現れた時よりも、驚いた顔が目の前に在った。
「……ハルカ……ちゃん?」
小さな声を絞り出してエリが見詰めるのはどこか憂いを秘めた、見慣れた姿だった。
「そうです。……あたしは、ハルカです。
今まで隠してきてごめんなさい。」
『ハルカ』は、大人たちの方へ深々と頭を下げる。
わざわざ正体を現したその不利さは、エリには利益のための巧みな嘘とは思えなかった。けれど、本当だとも思えなかった。それでもナナセの伏せた青の瞳の中に、誰になんと言われようとも曲げないような強い光がエリにも見えた。
「ナナセ王女なのね……。」
「はい。あたしが、ナナセです。
首狩りがこの町に来るそうですし、追い付かれないようにここを出ます。追い付かれて捕まったら、その町で迷惑がかかりますから。」
「じゃあ、黙って逃げたら良かったじゃないか。なぜ、それを今話した?」
トーヤの父のもっともな言葉に大人たちの鋭い瞳八つが彼女を射抜く。
「それは……アズキたちに伝えてしまったからです。」
アズキの様子なら遠からず両親に話したであろう。それならば、本人が伝えた方が伝えたいことも伝わるとも思ったから。
一呼吸置いて伏せた瞳を上げて、話し始めた。今、伝えないといけないことがたくさんあった。
昔の裏切りと、濡れ衣のような指名手配。それから、この街が好きだと。うまく表現できたか分からない、けれど言いたかった言葉を口に乗せた。
「……信じてなんて、無理なことは言わないです。
だけど、あたしはそういう昔があって、今ここにいます。」
重苦しい空気が部屋中を包む。皆それぞれ言いたいことがあったのに、言葉にすることを躊躇った。
「王女さま。」
エリがまた俯いたナナセを呼ぶ。ハルカちゃん、と呼ばれた事が遠い昔の事のよう。はいと、掠れた声でしか返せなかった。
「その話が本当でも、そうでなくても、私達はもう一緒に居ることができないわ。
本当ならば、私達は命を狙われるわ。嘘であれば、あなたが賞金首ということになる。
分かって……くれるわね?」
彼女は彼女で、家族を守る母の瞳をしていた。
「はい。分かっています。今までありがとうございました。」
出ていくつもりで、また追い出されるのは覚悟の上だった。だからエリの目を見て少し笑ってお礼が言えた。