空色の瞳にキスを。
■3.斯くて世界は廻り出す
1.色付く銀
『リョウオウ』からいくつか大きな街を跨いだところにある魔術都市『ルイス』は、最近は軍の機関も増えリョウオウよりも魔術発展を遂げている街である。
昔は要塞都市として機能したこの街には多くのビルが建ち並び、森がぐるりと囲んでいる。
がさり、と音を立てて街を囲んだ鬱蒼とした森から少女が顔を出した。
深く被った白い帽子から覗く長い黒髪が、ふわりと靡いた。くたびれた服装が旅人だと言外に主張する。明るい光に眩しがりながら、人が絶え間なく通る煉瓦造りの商店街を見渡した。
「わぁ……。」
白いブラウスに先代王の象徴色の青を基調とした膝丈のスカートという異国の──フェルノール風の出で立ちは、よく目立つ。
街の人たちの好奇の視線に気付いた彼女の興奮は沈んでいく。
「お嬢さん」
彼女が振り向くと痩せた黒髪の男がにこやかに笑っていた。切り揃えられた黒い髪、丈の長い羽織を身に纏った若い男だった。
「君、旅の人だよね?その服装はどうにかした方が良いと思うよ?」
なにも外国風の服装しなくても、と彼は笑う。
それに礼を返して笑い、困ったようにふらふらと視線を泳がせた彼女の手を、男は自然に取り上げた。
「俺はここに詳しいんだ。買いにいこう?案内するよ。
そうだ、君はどこから来たの?」
大きな瞳がびくりと固まって、それから曖昧な笑みを浮かべて笑った。
「ここから遠くの、遠くの街から来ました。ええと……リョウと言うんです。」
リョウ──ナナセは偽りの姿で、偽りの言葉と共に笑った。雑踏のなかで立ち止まり話をするふたりの姿は、どこか異質で、この街の雰囲気から浮いていた。
「そっか。」
頷いた男の瞳が怪しく光ったのを、瞳を伏せた彼女は見逃した。
「俺はキンヤ。さぁ、行こう。」
そう言ってキンヤは手を取り、半ば引っ張るように歩き出した。
少女は強ばったままだった頬を緩めた。彼は疑いもせずに信じてくれると、世界の優しさなんだかほっとしたのだ。
キンヤの背中を見つめて小さく笑い、ふとあのリョウオウのふたりを思い出す。
――置いてきてしまった、唯一無二のはじめての親友を。
今は気持ちに蓋をして、人形のように笑えばいい。そうすれば、きっといつか忘れて楽になれると、ナナセはそう信じている。だからこれ以上、二人に災難が降りかかりませんように、と、願ってやまない。
ふと我に返ると今連れて来られたのは少し入り組んだ人気のない路地裏。キンヤはそこで立ち止まった。その先は行き止まりだった。
「キンヤさん…?」
キンヤの手が離れていき、彼の姿が視界から消える。いつもなら彼ぐらい目で追えたはずだが、ぼんやりとしていてそれが出来なかった。
突然に前髪がぐん、と引っ張られ、空を仰ぐ格好になる。黒髪を隠していた帽子がぱさりと足元に落ちた。
「いッ……!」
「おい、もう出てきてもいいぜ。」
頭上から聞こえる低くて冷徹な声。声質から考えてもその声の主はキンヤしかいなかったが、先程までの雰囲気はない。
キンヤの合図で、多くの足音が近付いてくる。
「おいおい、ちっちぇ……。こんな奴が百億の賞金首の王女サマかよ?」
その一人だろうか、背後から低い男の声がした。
昔は要塞都市として機能したこの街には多くのビルが建ち並び、森がぐるりと囲んでいる。
がさり、と音を立てて街を囲んだ鬱蒼とした森から少女が顔を出した。
深く被った白い帽子から覗く長い黒髪が、ふわりと靡いた。くたびれた服装が旅人だと言外に主張する。明るい光に眩しがりながら、人が絶え間なく通る煉瓦造りの商店街を見渡した。
「わぁ……。」
白いブラウスに先代王の象徴色の青を基調とした膝丈のスカートという異国の──フェルノール風の出で立ちは、よく目立つ。
街の人たちの好奇の視線に気付いた彼女の興奮は沈んでいく。
「お嬢さん」
彼女が振り向くと痩せた黒髪の男がにこやかに笑っていた。切り揃えられた黒い髪、丈の長い羽織を身に纏った若い男だった。
「君、旅の人だよね?その服装はどうにかした方が良いと思うよ?」
なにも外国風の服装しなくても、と彼は笑う。
それに礼を返して笑い、困ったようにふらふらと視線を泳がせた彼女の手を、男は自然に取り上げた。
「俺はここに詳しいんだ。買いにいこう?案内するよ。
そうだ、君はどこから来たの?」
大きな瞳がびくりと固まって、それから曖昧な笑みを浮かべて笑った。
「ここから遠くの、遠くの街から来ました。ええと……リョウと言うんです。」
リョウ──ナナセは偽りの姿で、偽りの言葉と共に笑った。雑踏のなかで立ち止まり話をするふたりの姿は、どこか異質で、この街の雰囲気から浮いていた。
「そっか。」
頷いた男の瞳が怪しく光ったのを、瞳を伏せた彼女は見逃した。
「俺はキンヤ。さぁ、行こう。」
そう言ってキンヤは手を取り、半ば引っ張るように歩き出した。
少女は強ばったままだった頬を緩めた。彼は疑いもせずに信じてくれると、世界の優しさなんだかほっとしたのだ。
キンヤの背中を見つめて小さく笑い、ふとあのリョウオウのふたりを思い出す。
――置いてきてしまった、唯一無二のはじめての親友を。
今は気持ちに蓋をして、人形のように笑えばいい。そうすれば、きっといつか忘れて楽になれると、ナナセはそう信じている。だからこれ以上、二人に災難が降りかかりませんように、と、願ってやまない。
ふと我に返ると今連れて来られたのは少し入り組んだ人気のない路地裏。キンヤはそこで立ち止まった。その先は行き止まりだった。
「キンヤさん…?」
キンヤの手が離れていき、彼の姿が視界から消える。いつもなら彼ぐらい目で追えたはずだが、ぼんやりとしていてそれが出来なかった。
突然に前髪がぐん、と引っ張られ、空を仰ぐ格好になる。黒髪を隠していた帽子がぱさりと足元に落ちた。
「いッ……!」
「おい、もう出てきてもいいぜ。」
頭上から聞こえる低くて冷徹な声。声質から考えてもその声の主はキンヤしかいなかったが、先程までの雰囲気はない。
キンヤの合図で、多くの足音が近付いてくる。
「おいおい、ちっちぇ……。こんな奴が百億の賞金首の王女サマかよ?」
その一人だろうか、背後から低い男の声がした。