空色の瞳にキスを。
「あなたは何をする人なの?」

「私?私はここ、ルイスでなんでも商品にする商人をしているわ。言うなれば闇商人ってところね。」

「闇商人……。」

「といっても、自分の主義に反するものは扱わないから、全てという訳では無いのだけどね。」

「へえ……。」

彼女も闇の世界に立つ人のようだ。彼女の瞳の不思議な強さは、それが理由なのだろうか。

「医療魔術もナナセ王女ほどの力はないけれど、商いの中で闇医者もしているわ。私もそこそこ魔力が強いの。」

同じ世界のなかでも、強く生きている彼女が眩しく思えた。

「そうだ王女、お昼食べられるかしら?」

彼女はナナセを王女と呼んでいる。よそよそしい呼び名に少し悲しくなった。

彼女が寄せてきた食事の皿に乗っている美味しそうな食事。王女としか呼ばれないままで食べる料理は、多分、美味しくないから。

「ねぇ、あたしのことはナナセと呼んでくれないかな。
あなたの名前は?」

「私?私はスズランっていうの。タチカワ・スズラン。ルグィンのひとつ年上よ。
ごめんね、自己紹介忘れていたわね。」

すずらん、と教えて貰ったその名を繰り返してナナセは嬉しげに笑った。

「そっか。あたしよりふたつお姉さんね。あたしお姉さんいないから憧れるなあ。」
「私のこと、怖くないの?」
「どうして怖いの?」

まっすぐにスズランを見上げてくるナナセに向かって口を開いた。

「だって私、改造人間よ?
ライオンの耳をつけてる女の子よ。牙だってあるわよ?」

迷惑にならないと彼女に言っておきながらこんなことを口にするのは、矛盾してるのはスズランだって知っている。それでも尋ねずにはいられなかった。

「そうなんだ、ライオンかあ。ライオンはちょっと怖いかな。あたしのこと、食べないでね。」

怖がる素振りなく笑う彼女に、スズランは切なくなった。久しぶり胸が痛いのは、きっと自分を見てくれる人に出会ったから。

「貴女、凄いわね。」

負けたわ、とでもいうようにスズランは笑った。

「どうして?」

彼女が分かっているのか分かっていないのか、それすら分からない。

なのに胸のうちに、ほんのりとしたあたたかさを、スズランは感じた。

そんな二人を見て、ルグィンは小さくため息をついた。
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