空色の瞳にキスを。
水が飲みたいと言えば、取りにいきましょうとスズランが言いナナセは部屋を出た。スズランはカートも返す様子で片付けていたからその分時間がかかるだろう。

先に出ておいた方がいい気がして、部屋を出たものの、扉の外は創造よりも長い廊下になっていた。足元には赤い綺麗な絨毯。まるで、あの頃いた場所みたいだった。

「え、銀髪…?ルイの血筋か!?」

声がした方を振り向くと、若い男が二人立っていた。ここで世話になっているのだろうか、一人は腕を首から吊っていてもう一人は自分ほどではないが包帯だらけだ。
ここが病院のような風体をしたふたりだ。

「げ、『ナナセ』だ!ぼけっとするなよ!殺されるぞ!」
「いや待てよ。ここでナナセを捕まえたら……。」

面倒なことに、男たちの声は筒抜けである。しかも今はナナセは魔力も戻っていない。スズランの医療魔術は粗方治療しているが、魔術だけでは完治はさせられない。まだあちこち傷だらけだ。
大人しく待っていた方が良かったと後悔すると、スズランが出てきて肩を支えられた。

「駄目よ?この子捕まえたら貴方たちの商談破談にしてやるからね。」

「スズラン姐さん!?しかしこいつ……ナナセでしょう?」

「うーん、ちょっと違うのよ。
もともとルイの家系の子で、そっくりで生まれてきた子なの。だからナナセ王女の替え玉にされてる子。こちらで預かっているの。内緒よ。
──ほら、自己紹介。」

ここでも嘘をつかないと生きていけない。

けれど、守ってくれる人がいる。

「私はユリナ。私はナナセの再従兄弟(はとこ)にあたるの。」
だからこの人たちにも、笑って嘘を吐いた。


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