空色の瞳にキスを。
「ごめんね、ユリナ。こんなやつに出会わせて。欲の塊だから、気を付けなさいよ?首が飛んだらサシガネたちのせいだから。」

はは、と『ユリナ』に笑いかけるスズランは、少しさっきより粗雑な大人な印象を受けた。

「え、ヒドイよ姐さん!
そりゃ確かに、ナナセなら取っ捕まえて売ってやろうと思ってたけどさ。しょうがないじゃんナナセじゃないんだから。」

金髪の男が口を尖らせて頭をかく。隣の長い黒髪の男が鼻で笑った。

「まずこの屋敷ではそういうのお断りよ。」

スズランがそっぽを向いたら、なんだか謝る金髪が、なんだかおかしかった。どうみたって彼の方が年上だから余計に滑稽だった。

「ナナセじゃなくてごめんなさい。ナナセじゃないから、仲良くしてくれますか?」

空色の瞳をした彼女は銀髪を揺らして男たちにへらりと無垢に笑う。

「……おう。友達、な。」

ユリナは両手を顔の前で揃えて幸せそうに笑った。

「本当ですか、ありがとうございます!」

「しかしまあ本当にナナセと違うんだなあ。ナナセはもっと態度でかくて、怖かったのによ。」

「王女に会ったことあるんですか!」

ユリナが驚いて見せると金髪の男が頷いた。
「ああ、そうだよ。」
「じゃあ首狩りなんですか?」
「うん。」
「えっと、首狩りのサシガネさんと……?」

金髪の男の方を向くと、彼がにかりと笑って胸を張る。

「俺がサシガネ。サシガネ・レッカな。」

「トキワ・レン。俺はサシガネと組んでいる首狩りだ。」

黒髪の男は優しく笑う。

けれどもナナセも覚えている。名前を聞かなければ不自然だから尋ねたけれども、ナナセとして何度か出会ったことがある。
確か、サシガネは人の良さそうな顔に反して頭のいい切れ者と聞く。トキワは寡黙ながら武術で名高い。国でも十本の指に入る程の二人組の首狩りだった。
出会ってはいけない人に出会ってしまった。ナナセと瓜二つだなんて言われても当たり前だ。だから絶対にナナセ本人だと、確証を持たせてはいけない。

『ナナセ』に出会った人をどうやって誤魔化そうか。この人達は昔どうやって撒いたか。台所に案内されながら溜め息をつく。この規模の広い屋敷では台所という言葉が当てはまらないような気がしてきた。

すっかり信じてくれたようだけれど、明らかな嘘でこちらはばれやしないかとひやひやしている。スズランと話をして笑っている首狩りをちらりと見上げる。この人たちと向かい合うのが怖いと、ナナセの心が怯えた。
嘘を吐き始めたらキリがない。嘘の後ろめたさも知っている。塗り重ねていく辛さも、息苦しさも知っている。

ここまで逃げ切るために、どれだけの姿に化けて、どれだけの名前を使っただろう。嘘がバレたら逃げて、逃げて。


──あたしは弱いから、嘘を吐いて重ねて、偽りの自分に守られて生きている。

──でもいつかナナセとして、と願ってしまうのも、きっとあたしが弱いからだ。

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