空色の瞳にキスを。
「さて。」

アズキは無意識にごくりと、唾を飲み込む。サラの瞳の鋭さに、背筋が伸びる思いがした。

「私達──ソライは、未来予知に長けた魔術師の一族の末裔。この国にふたつある予知の一族のうちのひとつ。
もっとも、血が薄い傍系にあたるからこんなところにいるんじゃが。」

サラの言葉はアズキの想像を越えていた。そんな力がこの身に宿っているなんて、アズキはにわかに信じられない。

「予知?神官さんがするような、あれ?」
「もしお前が巧くその力を使えるなら、教会の神官など及びもしない。それよりもっと、稀少で、危ない力じゃよ。」

アズキは白い布団の上に乗った己の手を見下ろした。別段変わった手ではない。

サラのくすんだ金髪の奥にある薄い赤の真剣さに、アズキは理解を半分に先を促すしかなかった。

「予知能力以外にものの魔力が読めることは、この血筋の性質らしいのう。

予知の一族で血が濃い他の……例えばウェンディ家なんかは魔力探知に長けておる。けれどソライのように過去視はできないはずだ。まぁ、ウェンディも最近は並外れた神官は出していないが。今の最高神官は一般人じゃったかの。」

祖母の話に追い付けない。必死に頭を回転させても、聞きたいことが溢れてきて、頭が足りない。

「エリは私の夫に似て、その性質を受け継がなかった。血が薄いから、力が伝わらない幸せもあるのさ。

……けれど、お前は私の血を継いだ。」

祖母の両手が孫の頬を包んだ。ふんわりとした温かさに、アズキは目を細めた。間近にある赤い瞳がなんだか泣いているみたいで、動けなかった。

「……やはり隠し通せないな。
お前の魔力は私の何倍だ、……先視を司る赤い瞳はもう私よりも赤いじゃないか。

しかもまだ醒め切っておらぬとは、なんとまあ、危ない娘だこと……。」

サラの言葉の意味が半分も分からない。けれどアズキにも哀しみくらいは感じられる。

「ごめんおばあちゃん、意味が分からない、よ。」

「あぁ、ごめんよ。だが──予知の力は怖いものじゃ。

アズキは未来が視えて嬉しいかも知れないが、いいことばかりではないからの。力が安定しないなら、術者の意に沿わず世界の未来が見える。
……場合によっては、力に呑まれて術者の死を呼ぶ。それは良いことかね?」

アズキが首を横に振ると、サラははそうだろう、と頷き続けた。

「未来を変える、そんな力を持つからといってむやみに人の未来を変えるのは素敵なことか?死ぬはずのものが生き延びたり、生きるはずだった者が消えたり、そうして秩序が消えることは。」

人を救えるのはいいことなんじゃないか、と思うけれど、生きるはずの人が死んでしまうのは良くないことだとアズキは思う。

「珍しい力は、誰が欲しがる?誰が疎む?」

そうか、という呟きは音にはしなかった。けれどもやっと、アズキにもこの世界が見えてきた。
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