空色の瞳にキスを。
「──国が欲しがる?
国と、人に疎まれる?」

呟き声に、サラは大きく頷いた。

「この力故に、私達は世界に流されてきた。未来を読ませたい民衆から逃れるように、そうしてルイの地にやって来たんじゃよ。」

そんなお伽噺みたいな話が、自分の身の上だなんて思いもよらなかった少女は、サラの話に追い付けない。

しばらくしてやっと状況を飲み込み始めたアズキに、サラはひどく静かな目を向けた。

「この事は誰にも言ってはならないよ。」

どうしてだろうと、アズキが首をかしげた。するとサラは一度深いため息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。

「……世界を変える先視は、価値が高いのさ。言わなければ巻き込まれにくい。」

そう瞳を伏せて言うサラの瞳は、見たことないほど暗かった。

「私、ナナセが出てくる夢を見たの。それは予知に関係あるの?」

どうしてだかサラに今聞かなくてはいけないことがたくさんあるように思えて、なにかがアズキの心を逸らせている。

内容を急かすサラにことの次第を話すと、彼女は笑った。

「あんた、夢を渡ったね。」

嬉しいような、悲しいような笑顔だった。夢はただの夢じゃないよと笑うから、アズキは余計に分からなくなる。

「夢を……渡る?」

夢なんて、迷信みたいなものだとばかり思っていたアズキの世界はまた変わっていく。

「そう。『夢渡り』をしたのさ。
魔術師どうしは、夢でも会うことができるのさ。強い絆や信頼関係が夢を繋げるのじゃよ。
その王女さまはアズキの考えた幻の王女じゃないさ。親父さんが言う王女とは違ったじゃろう?」

父コルタは王女が自分を見捨てたと告げた。夢の彼女は自分に謝ってきた。本当のナナセはどっちと聞かれたら、アズキは夢の中の彼女を指すだろう。サラの言葉に後押しされても、けれども彼女を信じ切れなくて揺れて、揺れて、アズキは泣きそうだった。

「起きたときに王女の匂いがしなかったか?」

「……あ、……そうだ、優しい爽やかな匂いがしたの。水の匂いみたいな不思議な香り。私の間違いじゃないの?」

揺らいだアズキの瞳。その反応に目を細めて、サラは口を開いた。

「あれがナナセ王女の魔力の残り香。魔術師それぞれ違う物だ。
王女はここを去る前に、お前さんの傷口だけ黙って塞いでいったのさ。……お前が死なないように、とね。」

魔力が見える私らには隠したって無駄だけど、と肩をすくめて笑うサラが、アズキの視界の中で歪む。

「ほんと……?」

 アズキの声は掠れていた。頬を涙が伝って、堪えられなかった。

信じ切れなくてごめんねと、サラの腕の中でアズキは泣いた。もう一度信じることは、心に火が灯ったようだ。それとともに、溜め込んでいた暗い思いが堰を切って流れ落ちた。

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