空色の瞳にキスを。
「アズキさんのお父様。貴方はいつも答えてくださいませんが、アズキさんのこの傷はどうやったらこうなったのですか?」

またお決まりの会話を始めた。彼らはここ数日こればかり。けれどもアズキは、この二人の前でナナセを信じてるとは絶対に言ってはいけないと感じていて、話すまいとして唇を引き結んだ。

「治療に関係するのです。」

そう先生に言われたコルタは言わざるをえなくなり躊躇した。アズキが視線を送っているのにこっちを見ようとしなくて、先生の催促にとうとう口を割ってしまった。

「ある女に……アズキがそそのかされていて、俺はそいつを殺そうとした。そうしたら、アズキが庇うから俺が刺してしまった……。」

明らかに気落ちしてしまったコルタに、変わらない様子で先生は問う。

「女とは誰なんですか?」

そんな先生の声は、アズキの耳には遠く聞こえた。

「言わないと約束してくれるか?」
「はい。」

表情を変えず即答した先生に、コルタも腹をくくった。その背後で、アズキが怯えた目をしていることなど、まわりが見えないコルタは知らない。

「ナナセ。ルイ・ナナセだ。」

「……へぇ。やっぱりか。
コルタさん、娘さんに関する秘密を素性のわからない俺たちにそんな風に簡単に言ってはいけませんよ。」

そのお陰でこちらは随分楽になりましたがね、なんて付け足した声には打ってかわって冷ややかで。

「貴方は俺たちの職をご存知ですか?」

馬鹿にしたように嘲笑ってコルタに尋ねるその人は、さっきまでにこやかに笑っていた『先生』。

「……魔法医術師では、ないのか。」

見開かれたコルタの瞳は、こぼれ落ちそうだ。そんな愚かな男を、『先生』は鼻で笑う。

「──俺たちは……首狩りですよ。」

瞬間、アズキの耳にあの夜のナナセの声が蘇る。

──首狩り。

ナナセはなんと言っていたっけ。

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