空色の瞳にキスを。
誰かが肩を掴んでぐらぐらと揺らしている。

──待って、アズキと話が出来なくなる。もう少し。

「──ナナセ!」

切羽詰まったその声に、微睡みのような世界から引きずりあげられた。目の前の焦り顔のスズランにぱちくりする。

「あれ?スズラン……?」
「大丈夫か?」
「大丈夫。ありがとう。」

自分を見下ろすルグィンを仰いで笑う。ナナセはまだどこか夢見心地で、ふわりと浮遊感覚が残っていた。

目を覚まさない彼女が纏うおかしな魔術の気に肝を冷やした数分前を、スズランは振り返る。急に力の抜けた少女の体に、泣き疲れたのかと思いきやどこか不思議な眠り方で、薄く開いたの瞳の奥に見えた耳飾りと同じ魔方陣にひどく不安になったのだ。

「急に意識なくすから驚いたわ。本当に大丈夫?」

顔を覗きこまれたナナセは、力の抜けた瞳のままでへらりと儚く笑った。

「あたし、夢を見てたのかな。
アズキに会って来たの。」

幸せそうに、それでも悲しそうに彼女のその体験に、獅子はやっと気付いた。

「貴女、夢を渡ったわね。」

一瞬目を丸くして固まったナナセは、そうだね、とまた切なそうに笑った。そんな彼女にスズランがひとこと落ち着いた声で尋ねた。

「怪我はしていたの?」
「魔法でかなあ?傷が消え……てた?」

何が聞かれているのかナナセも勘づいたようで、一瞬で青ざめた。

「貴女、アズキさんに魔術をかけたといっていたわね。その人が貴女の魔術を知っていたら、彼女が危ないわ。」

そう言ったスズランを愕然と見て、ナナセは言葉を返すことができなかった。

魔力を使えば、魔力の跡が残る。他人にかける魔力は、どうしてか跡がくっきりと出るために、ひとそれぞれの魔法の跡がよく分かる。

ナナセは自分の魔術が変わっていることを知っている。相手がもし──首狩りの魔術師であれば、ナナセの魔術だと特定するだろう。

あたしのせいだと、ナナセは心臓が締め付けられる思いがした。まだ確定したわけないと励ますスズランの声も、嫌な予感しかしなくて、もう耳には入らなかった。


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