空色の瞳にキスを。
それから数日、ナナセは塞ぎこみ気味であった。サシガネたちにも会わず、スズランやルグィンが来ても口数は少なく、始めの方に見せた空元気もだんだん消えていった。

もうふたりを巻き込まないと誓った手前、どうすればと彼女は迷っていた。自分の魔力を使い果たした今は、約束を破ってすぐに駆けつけることも出来ず、回復を待つ他ないから。

座った椅子の上で膝を抱え、身体はさらに小さく見えた。

「ナナセ。」

その部屋にスズランが二人分の朝食を運んできた。ルグィンは朝はいつもいないらしかった。
その日も朝早くから起きて、ナナセは踞って外を眺めていた。
おはようとスズランが言えば、おはようとナナセが振り返って返した。

「スズラン、ありがとう。」

ふ、と一瞬だけ口元に笑みを乗せたけれど、すぐに消えた。ナナセはやはり笑う気になれなかった。

もちろんナナセは丁寧に受け取ってきちんと食べる。
話をしようとしないナナセに、スズランは付き合ってくれる。二人で黙々と食べた後は、またスズランは仕事へと戻る。
それでも合間を見つけては花や珍しいものを持ってきたり、少しでも笑えというように、励ましてくれる。

ルグィンは、朝食が終わる頃に帰ってくると、それから日が暮れるまで側にいてくれる。
別に何を語り合うわけでもなかったけれど、彼女が一人にならないようにと居続けてくれる。
声にはどうしても出せないけれど、ナナセは二人にとても安心し、感謝していた。
けれど夜になれば広い部屋に独りになる。
昼間よりもっと──よくない想像が色々浮かんできて、ナナセはほとんど眠れなかった。涙がぼろぼろと溢れてきて、どうしようもない。

その日も眠れなかった。窓越しに見える緑が月明かりで輝く中庭を眺めていると、ふと外へと出たくなった。
いくら魔力が使えなくて危ないからといってこれでは気が滅入る。

ナナセは自室のその大きな窓によじ登った。
久し振りで少し胸が高鳴る。
この姿のままで外へ出るなというスズランの言いつけには、夜だから見つかる可能性は低いから、と心の中で返しておく。

窓を開いた瞬間、冷たい空気が部屋へ流れ込んできた。身体に染みわたる空気が、乾いた喉へ通る水のようだった。

いつものように──昔みたいに窓枠を蹴り出して空に身を投げる。
降り立つときに、一瞬魔術を使った。
青い光が薄すぎて、力を込めてもいつもの術に劣る。無理に引き出そうとして魔力に呑まれかけた。使い終えたあとにくらりと目眩を感じる。

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