空色の瞳にキスを。
3.約束
空気はつめたくて、触れている背中はあたたかくて。彼に触れている背中から熱がじんわりと伝わってくる。
ルグィンの腕は前にまわされて、ナナセを抱き締める格好になっている。ルグィンはナナセを一度ぎゅ、と引き寄せた。優しい香りに、ナナセはふと切なくなる。
「驚いた……。」
耳元で囁かれる声は相変わらずくすぐったい。ナナセは頭ひとつ大きいルグィンを振りあおいだ。
「どうして驚くの……。」
切れ長で金色の瞳を優しく細めて、彼にしては珍しく、小さく笑った。
「部屋にいるはずのナナセが外にいるから。
何かあったのかと思った。」
「ごめんね。まだ魔力で防御できる状態じゃないのはわかってるけど……。」
口ごもる銀の少女に、ルグィンは小さく笑う。
「けれど、か。」
頷き切なそうに笑う彼女に、ルグィンは空を見上げてため息を吐いた。
白い息は夜に揺らいで消える。
「アズキと、トーヤの事か?」
「うん。」
月の薄明かりが彼女の笑顔に影を落とす。静かに語りだした声に、明るさはなかった。
「追われる身になってはじめての……はじめての、大事な友達だったの。だからね、どうしても助けたくて。だけど……。」
ナナセは言葉を詰まらせた。その先を躊躇う彼女に、ルグィンは黙ったままだ。
「あぁ、今のお前じゃ無理だな。」
ルグィンが冷ややかに言い捨てた。ナナセはその言葉に涙を落とさぬように唇を引き結ぶ。強張った背中に、大きな手が触れた。
「お前がちゃんと後悔してて、助けに行きたいって思ってるのは知ってる。でも、今の魔力の使えないお前を抜けなきゃ助けに行けないぞ。」
その言葉に、顔をあげた。月と同じ色の瞳が、視界に飛び込んだ。
「ちゃんと治さないと。
……なに、その顔。見下されるとでも思ったのか。」
てっきりお前じゃ駄目だと全否定されると思っていた彼女は、心がまだ追い付かない。
助けにいかなきゃならないのに、友達を見捨てた奴に助ける資格なんかないと、誰かに否定されそうで怖かったのかもしれない。ルグィンにも『助ける資格なんかない』と砕かれると思っていたのに、心を汲んでくれた。
「助けに行って、いいのかな……。」
瞳を大きく見開いて、真っ直ぐに尋ねる。
「お前が行かなきゃ、誰が行くんだよ。」
軽い音をともなって額がはたかれた。
そんな風に励まされたのは初めてで、ナナセは目を丸くして彼を仰いだ。
いつもはひとりで決めていた。けれど今は、背中を押してくれる人がいる。
それだけでこんなにあたたかい気持ちになる。それが本当に嬉しくて、でもどう伝えれば良いか分からない。
ルグィンの腕は前にまわされて、ナナセを抱き締める格好になっている。ルグィンはナナセを一度ぎゅ、と引き寄せた。優しい香りに、ナナセはふと切なくなる。
「驚いた……。」
耳元で囁かれる声は相変わらずくすぐったい。ナナセは頭ひとつ大きいルグィンを振りあおいだ。
「どうして驚くの……。」
切れ長で金色の瞳を優しく細めて、彼にしては珍しく、小さく笑った。
「部屋にいるはずのナナセが外にいるから。
何かあったのかと思った。」
「ごめんね。まだ魔力で防御できる状態じゃないのはわかってるけど……。」
口ごもる銀の少女に、ルグィンは小さく笑う。
「けれど、か。」
頷き切なそうに笑う彼女に、ルグィンは空を見上げてため息を吐いた。
白い息は夜に揺らいで消える。
「アズキと、トーヤの事か?」
「うん。」
月の薄明かりが彼女の笑顔に影を落とす。静かに語りだした声に、明るさはなかった。
「追われる身になってはじめての……はじめての、大事な友達だったの。だからね、どうしても助けたくて。だけど……。」
ナナセは言葉を詰まらせた。その先を躊躇う彼女に、ルグィンは黙ったままだ。
「あぁ、今のお前じゃ無理だな。」
ルグィンが冷ややかに言い捨てた。ナナセはその言葉に涙を落とさぬように唇を引き結ぶ。強張った背中に、大きな手が触れた。
「お前がちゃんと後悔してて、助けに行きたいって思ってるのは知ってる。でも、今の魔力の使えないお前を抜けなきゃ助けに行けないぞ。」
その言葉に、顔をあげた。月と同じ色の瞳が、視界に飛び込んだ。
「ちゃんと治さないと。
……なに、その顔。見下されるとでも思ったのか。」
てっきりお前じゃ駄目だと全否定されると思っていた彼女は、心がまだ追い付かない。
助けにいかなきゃならないのに、友達を見捨てた奴に助ける資格なんかないと、誰かに否定されそうで怖かったのかもしれない。ルグィンにも『助ける資格なんかない』と砕かれると思っていたのに、心を汲んでくれた。
「助けに行って、いいのかな……。」
瞳を大きく見開いて、真っ直ぐに尋ねる。
「お前が行かなきゃ、誰が行くんだよ。」
軽い音をともなって額がはたかれた。
そんな風に励まされたのは初めてで、ナナセは目を丸くして彼を仰いだ。
いつもはひとりで決めていた。けれど今は、背中を押してくれる人がいる。
それだけでこんなにあたたかい気持ちになる。それが本当に嬉しくて、でもどう伝えれば良いか分からない。