空色の瞳にキスを。

   ***


ルグィンは水兵服の背中をぼんやりと眺めながら、廊下を歩くふたりの後を追う。
前を歩く女子はふたりで楽しそうだ。スズランが姉のようにナナセを可愛がる。肩を揺らして笑うナナセの背中が、ルグィンから見えた。

角を曲がった辺りで、人のいなかった廊下に人影が見えた。

「あ、姐さん!ユリナちゃん!」
顔を上げて見えたのは、サシガネとトキワだ。廊下の先で手を振ったサシガネは、足音静かに駆け寄って来る。その後ろをトキワがのんびりと歩いてくる。

「サシガネさん、トキワさん!おはようございます。」

「おはよう。朝早いねー。三人揃ってどこかへ行くの?」

サシガネが尋ねれば、彼女は嬉しげに笑う。

「はいっ。外へ出られるんです。」

「へぇ。良かったじゃないか。」

サシガネがユリナのくるくると撫でると、はい、とまたユリナは頷いて笑みを見せる。

「ユリナ、もう行くわよ。」

「あ、うん。」

スズランが歩き出すと、置いていかれまいとユリナがふたりの後を追う。

「気を付けて行ってこいよー。狙われないようにな!」

「はい、行ってきます。」

にこにこと手を振るサシガネに嬉しそうに手を振り返しスズランと並んで歩き出す。


いつもの通りすぎるふたりに、ルグィンは足を止めて振り返った。
手を振る彼らの瞳は、冷ややかだった。

   ***


冬の高く青い空は、澄んで晴れていた。

人から見えないように造られたという裏庭から見る空は、静かで邪魔がなくて格別だった。スズランのことだから、ここにも魔術がかけられているのだろう。

「ねぇ、ナナセどこに行きたい?」

決めていないの、と笑ったスズランを、ナナセは振り返る。

「どこでも……いいの?」

「いいわよ。」

「あたし、ルグィンと出会ったあの草原に行きたいな。あの場所の花がもう一度見たいな。」

ナナセは暗がりで立ったあの世界が忘れられなかった。行きたい場所と問われ思い付いたのは、あの場所だった。記憶に新しい鮮やかな世界を思い出すナナセの瞳は、優しい空色をしていた。

「いいわよ。でもそこの花が咲いているかは、分からないわよ。」

「あそこは冬でも花は咲いてる。」

スズランの言葉が終わるや否や、ルグィンが言葉を被せた。ルグィンがはっとして視線を落とした。

「……多分特別ななにかがあるんだろう。」

「ふうん。ルグィンはいつも早朝からいないと思ったら、見に行ってたのね。私、知らなかったわ。」

スズランが笑いをこらえている。ルグィンはじとりと睨み返したが、弟分のような彼をからかうのが好きらしいスズランはへこたれる様子がない。
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