空色の瞳にキスを。
絵の具を落としたような綺麗な赤と黄色の木々のなかに、その場所はあった。その場所だけが切り取られたみたいに明るく華やかだ。
山の中腹であるこの草原は、何故か花が咲いているそこだけぽっかりと穴が空いているように森がない。その草原だけが特別な場所のようだった。
スズランが空を見上げると、ちょうど二人が下りてくるところであった。
「この間の花と違う!」
ナナセがいつになくはしゃいでいて、スズランは思わず笑ってしまう。
「もうちょっと待ってくれって。」
「……あ、ごめんね。」
抱えられていることを忘れて身を乗り出すナナセを、ルグィンが抱え直した。謝っても、彼女の瞳は近付く色とりどりの花を映したままで、まるで子供のようだった。
ルグィンがスズランの隣に下ろしてやれば、礼と同時にナナセは足元の草花に興味を示す。
「うわ……。」
手を伸ばしたその先には、青い風車に似た花が咲いていた。
「オドリグサがあるってことはここは魔力のある場所みたいね。」
「あ、それは聞いたことある。魔力を栄養にする花だったっけ。初めて見る!」
無邪気に喜んで花を撫でるナナセの瞳は、いつになく輝いていた。後ろから見守るスズランは、自身の妹と重ねていた。
ルグィンはスズランの隣で腰を下ろして、ぼんやりとナナセがはしゃぐ様子を見ている。
スズランとルグィンが見守る先で、撫でた花が伸びたことに驚いたナナセは手を引っ込めた。
驚く様子があまりにも無邪気で、スズランは笑った。ひとしきり笑うとスズランは顔をあげた。ナナセが驚いたようにスズランを見ている。
「その花は魔力を感じて成長するわ。ナナセの魔力が花にとられることはないけれど、貴女がいたらここの草木はどんどん伸びるわよ!」
声が風に流されないように、ナナセへ向けて半ば叫ぶ。驚いたようなナナセが、足元を見渡す。実際、魔術師であるスズランの足元でも蕾が花を開いたところだ。ルグィンが自分の足元の花を残念そうに見ている。その様子にスズランが笑うと、ルグィンが彼女を振り返った。
「ナナセには『そっち』で接するんだな。」
「……え?」
スズランは上がった口元にそろりと触れる。自分が思ったよりも、彼女は笑っていた。
それが無意識の行動だとばれたらしく、ルグィンがふうとため息をついた。
「スズランは繕うのが上手いのか下手なのか分からない。」
「……うるさい。」
獅子の彼女は耳を曲げて、ナナセに視線を逃がした。
屈んだ銀の王女は、まだオドリグサに手を伸ばしている。一気に伸びた茎に、それを見上げたナナセが笑った。
「わぁ……!」
ただの少女の感嘆の声。けれどあんまりにも無邪気で、十六の少女の割には幼かった。彼女の稚拙な反応は、人との関わりを一度やめたからであろうか。
ゆるやかに感情を取り戻す彼女が持つ根の明るさにスズランは一緒になって笑った。
足元を見ていたナナセは、小さな新しい芽が出たのがが嬉しくて、空の瞳を輝かせてスズランを見上げる。
「もしかして、あたしが歩き回ればたくさん生えるかな?」
スズランが笑って頷くと、広い草原を弾けるような笑みと共にナナセが歩みだした。
山の中腹であるこの草原は、何故か花が咲いているそこだけぽっかりと穴が空いているように森がない。その草原だけが特別な場所のようだった。
スズランが空を見上げると、ちょうど二人が下りてくるところであった。
「この間の花と違う!」
ナナセがいつになくはしゃいでいて、スズランは思わず笑ってしまう。
「もうちょっと待ってくれって。」
「……あ、ごめんね。」
抱えられていることを忘れて身を乗り出すナナセを、ルグィンが抱え直した。謝っても、彼女の瞳は近付く色とりどりの花を映したままで、まるで子供のようだった。
ルグィンがスズランの隣に下ろしてやれば、礼と同時にナナセは足元の草花に興味を示す。
「うわ……。」
手を伸ばしたその先には、青い風車に似た花が咲いていた。
「オドリグサがあるってことはここは魔力のある場所みたいね。」
「あ、それは聞いたことある。魔力を栄養にする花だったっけ。初めて見る!」
無邪気に喜んで花を撫でるナナセの瞳は、いつになく輝いていた。後ろから見守るスズランは、自身の妹と重ねていた。
ルグィンはスズランの隣で腰を下ろして、ぼんやりとナナセがはしゃぐ様子を見ている。
スズランとルグィンが見守る先で、撫でた花が伸びたことに驚いたナナセは手を引っ込めた。
驚く様子があまりにも無邪気で、スズランは笑った。ひとしきり笑うとスズランは顔をあげた。ナナセが驚いたようにスズランを見ている。
「その花は魔力を感じて成長するわ。ナナセの魔力が花にとられることはないけれど、貴女がいたらここの草木はどんどん伸びるわよ!」
声が風に流されないように、ナナセへ向けて半ば叫ぶ。驚いたようなナナセが、足元を見渡す。実際、魔術師であるスズランの足元でも蕾が花を開いたところだ。ルグィンが自分の足元の花を残念そうに見ている。その様子にスズランが笑うと、ルグィンが彼女を振り返った。
「ナナセには『そっち』で接するんだな。」
「……え?」
スズランは上がった口元にそろりと触れる。自分が思ったよりも、彼女は笑っていた。
それが無意識の行動だとばれたらしく、ルグィンがふうとため息をついた。
「スズランは繕うのが上手いのか下手なのか分からない。」
「……うるさい。」
獅子の彼女は耳を曲げて、ナナセに視線を逃がした。
屈んだ銀の王女は、まだオドリグサに手を伸ばしている。一気に伸びた茎に、それを見上げたナナセが笑った。
「わぁ……!」
ただの少女の感嘆の声。けれどあんまりにも無邪気で、十六の少女の割には幼かった。彼女の稚拙な反応は、人との関わりを一度やめたからであろうか。
ゆるやかに感情を取り戻す彼女が持つ根の明るさにスズランは一緒になって笑った。
足元を見ていたナナセは、小さな新しい芽が出たのがが嬉しくて、空の瞳を輝かせてスズランを見上げる。
「もしかして、あたしが歩き回ればたくさん生えるかな?」
スズランが笑って頷くと、広い草原を弾けるような笑みと共にナナセが歩みだした。