空色の瞳にキスを。
しばらくしてその草原から街へ戻ると、思ったよりも長い間草原にいたようで、昼を大きく過ぎていた。


屋敷へと戻り、三人揃って遅い昼食をとり、後片付けを三人でする。

食器を片付けながらスズランがふと口にした。


「ナナセ、貴女の髪、中途半端に長いのね。

伸ばすの?」

突然のスズランの問いに、ナナセは泡だらけの手を止めて振り返り、二人にきょとんとした顔を見せる。

スズランの視線の先にあるのは肩まで伸び、毛先が柔らかく跳ねた銀色の髪。

「え…?」

「理由はないわ。
気にしないで、思い付いただけだから。」


そう言うスズランを見てキッチンに向き直ると、食器を洗う手を動かしながら、ナナセは口を開いた。

「決めていないなぁ…。
いつもは姿を変えているし、見せる人はほとんどいなかったから…。

どっちでも良かったからね。」

彼女は瞳を伏せて、小さく笑った。

「この姿をずっと晒して過ごすのは久しぶり。」


台所の壁を見つめるその瞳はここではない遠くを見ていて。


「ねぇ、スズラン。
この髪どうしたらいいかな?」

彼女のそんな質問に、スズランは小さく溜め息を吐く。

─女の子なのに、お洒落に無頓着すぎる。

周りから追われる生活をしていたせいもあったとしても。

彼女は興味がないように言うから。


揺れるスズランの瞳は、まっすぐに彼女を見ている。

言葉を返してこないスズランにナナセは食器を洗う手を止めた。


「…ナナセ。」



口を開いたのは。


沈黙を破ったのは、低くて温かい、そんな声。

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