空色の瞳にキスを。

彼女の名を呼んだのは、ルグィン。

優しい声に、ナナセが振り返る。

次の言葉が出てこなくて、机を拭く手を止めたルグィンの金色の瞳に自分の空色の瞳を合わせる。


「伸ばせば。」

一言、ルグィンの薄い唇から発せられた。

次の言葉を待つナナセとスズランに気付いて、ルグィンはもう一言付け加える。

「長い髪も、似合うんじゃないか？」

「…そうかな…。」

消え入りそうな声ではにかむ彼女を見て、彼は我に返ったような顔をした。

そして机を有り得ないくらいの速度で拭き、ふきんを置いてこの部屋から出ていく。


「…あれ…あたし、何か気を悪くさせちゃったかな…。」



バタン、と閉まる扉の音を聞いて寂しそうに呟いたナナセに、スズランが溜め息をついた。


「…髪伸ばしてね、ナナセ。」

「うん、似合うといいな。」


純粋に言ってのけるナナセに、またスズランは溜め息をついた。



「ねぇ、ナナセ。
貴女、お洒落してないでしょう。」

「…う、うん…。
小さい頃から苦手…。」

化粧などお洒落を世話係だったロウたちに教わるまでに城を出た。

小さい頃のお洒落はすべて世話係に当然任せていたのだから、大きくなった今でもどうすればいいのかなんて知らない。

手をつけていないのだ。


「そう…。」

ふっと溜め息をついたスズラン。

そして、ナナセを見て笑う。


「明日、覚悟してなさい。」

「…う、うん…。」


何かを企んでニヤリと笑ったスズラン。

彼女にナナセはひきつった笑みを貼り付けて、気後れしながら答えた。