怪盗は静かな夜に出会う
月夜の出会い





―――静かな月夜、明かりのない邸内に一つの影が降り立った。



「さて、『暁の祭杯(あかつきのさいはい)』ちゃん待っててねっ、と!」

影は簡単に辺りを確認すると、音をたてないように柱の角を曲がろうとする。

窓から差し込む月光がその者の姿を照らした。



長い茶髪にキャスケットを深く被り、上着の長い袖が手の甲まで伸びている。
ハーフパンツから現れた足は膝以上もある長いブーツが包む。

目にかかる長い付けまつ毛に、派手なメイク。

その姿は、街中でどこにでもいそうな『ギャル』そのものだった。

その手にはめられた、黒い皮手袋を除いては。



角を曲がった途端、彼女は人影を察知してハッとした。

「―――何で、人が。今日は邸内には誰もいないはず……」

「初めまして、怪盗ブルームーン」

前に立つ影がそう言った。

一瞬雲間から月光がその人影の方へも差し掛かる。



スラリと伸びた手足と身体、短い黒髪から見える切れ長の瞳。

その目は彼女を不審がるというよりは、ただ観察している様に見えた。



「まさか……桐原静也(きりはらせいや)?」

彼女が聞くと、彼はゆっくり頷いた。



 
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