怪盗は静かな夜に出会う
「―――『暁の祭杯』がここにはない理由は分かった。それで?お前が俺に会いたかった理由ってのは何だ」
兄の事を思い目をふせた静夜に、怪盗は次の疑問を投げかけた。
彼女の目がゆっくりと上目がちに彼を捉える。
その今にも泣き出しそうな、すがりつく様な瞳に彼は息を呑む。
「私と一緒に……『暁の祭杯』を取り戻してほしい」
「……」
それは、予想していた言葉だった。
静夜からわずかに目を反らした彼はため息を吐く。
「お願い!『暁の祭杯』さえ戻れば、兄さんも帰ってくると思うから!」
畳み掛ける様に彼女は懇願した。
目線を落とした怪盗の顔から、彼の考えている事を探ろうとするがそれは見えない。
しばらく考え込んでいた彼は、ふいに彼女を見た。
「手伝ってやってもいい。その代わり、その分の報酬はもらうぞ」
「……っ、もちろん!」
心底嬉しそうな笑顔を見せた静夜に、彼はスッと手袋から右手を抜いて差し出した。
「俺の名前は月斗(つきと)だ、よろしくな」