怪盗は静かな夜に出会う
「ただいまー」
高層マンションの一室に戻った彼らは、カードキーで中に入る。
「お帰り。上手く行ったのか?」
リビングから顔を覗かせたのはカルラと同じくらいの30代の青年。
「高弘(たかひろ)、ただいまー!」
抱きつくカルラを引き剥がしながら、高弘と呼ばれた青年は月斗に近寄る。
「その様子だと、問題発生か」
「ちょっとな」
月斗は静夜との話を簡単に説明してみせた。
「『暁の祭杯』奪還か……」
話を聞いた高弘は、考え込む様に腕組みをする。
「やるのはともかく、こちらの利益はなんだ?話からすると、持って逃げる訳にもいかんだろう」
『暁の祭杯』は静夜の兄が戻ってくる為に必要なものだ。
約束した以上、それを奪う事は月斗には出来ないと高弘は言う。
「『暁の祭杯』で必要な部分は内側の模様だけだ。見せてもらえば、すむ話だろ?」
「解読には時間がかかる。それに彼女にも知られてしまう事になるぞ」
第三者の介入を拒むかの様に、彼は厳しい口調で続ける。
「彼女は信頼に足るのか?」
「―――それはまだ分かんねー。けど、放っておけなかったんだ……」
目線を落とした月斗を見て、高弘はため息をつく。
「……付き合ってやるよ」
そう言って、彼はうなだれた月斗の頭を撫でた。