怪盗は静かな夜に出会う
「……ごめん」
しばらくして、彼女がそう呟いた。
彼は撫でていた手を止める。
「大丈夫か?」
「……うん。恥ずかしくて驚いたけど、もう大丈夫」
「そっか」
ホッと息をついた彼を彼女は見上げる。
まだ少し潤みの残る彼女の目とぶつかって、彼は驚きに目を瞬かせた。
ドキッと音を立てた心臓と、熱くなってくる体温。
直後、彼は目をそらした。
「……聞いてもらいたい事があるんだけど、いいかな?」
彼女の言葉に、怪盗は眉を軽くしかめる。
「まさか、会いたかった理由とかか?」
「うん。それと、『暁の祭杯』に関係する事」
「―――分かった。とりあえず聞いてやるよ」
『暁の祭杯』の事と聞いて、彼は二つ返事でそれに応じた。
彼女の案内で、彼は近くの一室に入る。
豪華な桐原邸の一室はシンプルだけど高価な家具に囲まれていた。
彼がソファに座ると、彼女は手にしたキャンドルに火を灯す。
揺らぐ光が辺りを柔らかく照らした。
近くのテーブルにそれを置くと、彼女ももう一つのソファに座る。
「『暁の祭杯』がここにないのは本当だから」
わずかな沈黙の後、彼女はポツリと言葉を口にした。