怪盗は静かな夜に出会う
「『暁の祭杯』の詳しい事は知ってるんだよね?」
「もちろん」
現在、『暁の祭杯』は桐原家家宝でありながら、個人所有の有形文化財でもある。
それだけにいつも厳重に警備されており、容易に見る事すら叶わない。
今回のような機会がない限り。
「この屋敷の改装の噂は聞いてた。『暁の祭杯』が外に保管される事もな。だけど、いつなのかまでは分からなかった」
けれど昨晩、急に彼の親しい情報屋から連絡があったのだ。『改装工事は明後日、だが獲物は移送せず屋敷にある』、と。
「いきなりの話だったが、信頼してるヤツだしな。その分情報料もずいぶん高かったけど」
彼は親指と人差し指でわっかを作り、金の事を暗示してみせた。
「……邸内の詳しい見取り図と、地下金庫の情報付きで?」
「そうそう」
代わりに言った彼女の言葉に、怪盗は何度もうなずいてみせる。
その直後、彼はハッと何かに思い当たった様に目を見開いた。
「まさか……お前がその情報を流したのかっ?」
その言葉に、彼女は目でそうだと答えた。