怪盗は静かな夜に出会う
「一体……何の目的があって、んな事をしたっつーんだ?俺に会いたかったのだけが理由じゃないよな?」
彼の責める様な声に、彼女は深呼吸の後に口を開いた。
「それを話す為に、まず私の事を話すね」
彼女の目線がテーブルのキャンドルに向いた。
「私の本当の名前は『桐原静夜(きりはらしずよ)』。静也(せいや)は兄の名前なんだ」
「……兄」
彼の呟きに、静夜は頷いてみせる。
「私のこの姿は、失踪した兄の代わりをするため。兄の失踪の原因となったのが、『暁の祭杯』」
「どういう事だ?」
ここで彼女は、一息入れる様にフゥとため息をついた。
「『暁の祭杯』が騙し盗られたから」
「なん……っ、騙し盗られただとっ!」
思わず静夜の方に乗り出した彼は、驚きに声を荒げた。
悲しげにうつむいた彼女は、事の詳細を話し始めた。
事の始まりは、内々で開かれた兄・静也の後継披露パーティーからだった。
失踪前の静也から聞いた話によると、その日彼に挨拶に来た人間の中にそいつは居たらしい。
「初めは兄も警戒していたそうだけど、口の上手さに翻弄されたのか相手の屋敷に訪問する事を約束してしまった」
しかも非公式に『暁の祭杯』を持ち出して。
「非公式ってーと、つまり『こっそり』って事か?」
「そう、『こっそり』。だから途中で無くなったとしても、記録には残らない」