怪盗は静かな夜に出会う


彼女が話終えた後、その場に沈黙が流れた。



ロウソクの火がわずかに揺れる。

二人の影も同じ様に揺れた。

「屋敷への招待、非公式の持ち出し、盗難……。なんか出来すぎな気もするな」

厳しい表情で話を聞いていた彼は腕を組み、考え込む。

「ソイツの名前、分かるのか?」

その質問に、静夜はゆっくり頷く。



「―――『ホテル・ヤナハラ』の社長、柳原遼太郎(やなはらりょうたろう)」

「柳原!……確かにあのクソ親父ならやりかねねぇな」

彼はその名を吐き捨てる様に口にした。



 柳原遼太郎―――父の代から築き上げた『ホテル・ヤナハラ』を、全国に広めた経営手腕を持つやり手の社長だ。

彼が社長に就任してからの十年、ホテルの株価もうなぎ登りに伸びている。

けれど裏の世界では、柳原は多少強引な手段を取る事で有名であった。



「俺らから言わせてもらうと、アイツに騙された奴は弱味を握られて泣き寝入りだ。お前の兄貴がそうだった様にな」

「……兄さん」



 
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