《続》跡目の花嫁さん~家元若旦那の危ない蜜月~
濱部社長は私にメモをくれた。



「ありがとうございます」


「さてと、出ようか?」


「あの・・・上着のボタン取れかかってますよ」


「んっ?あ…全然、気づいてなかった…」


* * *


店を出て、小さな公園に入った。


「…早く、帰らないとご主人が怒るんじゃあないか?」


「主人は今夜は相馬社長の会食に同行してて、遅くなります」


「ふーん。そうか」


濱部社長は目の前の噴水を見つめていた。ライトの具合で色が変化する噴水。


「最近、一人で晩飯を食べていたから…今夜は君のような可愛い子がいてくれて楽しかった」



「奥様は?」


「実家に帰ってる…。栗原の3番目の子供が生まれたばかりだから、何かと辛いんだろうな。男の俺には分からない…心の闇を抱えてる。子供なんていなくていいと思っていても…周囲が…。子供のコトを考えると出てくるのはため息ばかりだ」


私は上着のボタンを縫いつけながら、濱部社長の愚痴に耳を傾けた。


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