記憶

慰めるつもりはない。
このような状況を招いた責任がもし私と彼のどちらかにあるのなら、それは間違いなく彼の方にあるからだ。
かと言ってこのままにしておくわけにもいかず、結局声をかけてしまう私にもやはり少なからず罪悪感があるのだろうと、勝手に解釈をした。
「君は─これからどうするんだ?」
冷たく言い放ったその一言は夜の闇へと消えていく。
月も星も隠れた空は見ているだけで吸い込まれてしまいそうなほどの黒だった。
「─…ない。」
顔を上げていた私の頬に雨粒らしき水滴が落ちるのとほぼ同時に、この距離に居ながら聞き取れない程小さな声で彼は言葉を発した。
風の音も波の音も聞こえない名前も知らない静寂の海岸で、見知らぬ彼と出逢ってからの記憶は今でも鮮明に残っているが、それが彼と交わした最後の会話ということで間違いないだろう。
当時の私を思い出すと、おおよそこのような状況、感情だったはずだ。

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