自分の中で
義男は焦っていた。
今のままでは、本当に就職してしまいそうで怖かった。営業の仕事、それも精密機械の仕事なんて。
義男は考えていた。俺は一体何をしたいんだろう。ため息しかでないわあ。
しょうがないから、義男は目をつぶった。
もう春なのにこたつ布団にくるまって。
義男自身過去を振り返るなんて好きではなかった。
しかし、背に腹はかえられない。
少しでも過去に答えがあるならば…。
義男は名古屋に生まれた。
義男の父親は、市役所に勤める公務員であった。母親は専業主婦であった。義男は一人っ子で両親にあまあまに育てられた。
まあ何をやっても誉められた。まあ義男自身自分はとっても可愛いと思っていたけど。
IQは低いけどEQは高いタイプであった。
そういえば、小学生の時、確か四年生ぐらいだったが。
近所で有名な習字教室に通い始めた。
習字教室の先生は佐田先生だった。
佐田先生はとにかく優しい人だった。
いつも合格としか言わなかった。
だからいつも義男は両親に、自慢げに段が上がったことを自慢げに話した。
両親は苦笑いをしていた。
でも学校では一番習字が下手だった。
佐田先生の習字教室には、五十人ほどの小学生が通っていた。
今思うと結構商売上手なのがわかる。
佐田先生の家は大きく、特に庭が広大であった。
とにかくいつも習字などやらず、庭を駆けずり回っていた。
同級生の慎太郎も、義男が習字教室に行くのがわかったので、ついてきた。
広大な庭には立派な桜の木があった。佐田先生の宝物でもあった。 いつも二人はその桜の木で逆上がりの練習をしていた。
先生の座っている部屋から死角になって見えなかった。
桜の木がそろそろ満開間近の時に、二人は桜の枝を折ってしまった。 「バキキ、バギー。」 「いてててて。」
二人は桜の枝をつかんだまま落下した。
「ぎゃあ。こらこのくそガキ。」
あの温厚な佐田先生がアワを吹いていた。 般若の面に真っ赤なスプレーを吹き付けた顔をして近づいてきた。
「こら川原、殺す。」
あれなんで俺だけ。 「このたけ。」
義男は本能なのかとっさに逃げ出した。
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