曖昧ショコラ【短】
「失礼します」


どうやら執筆に没頭しているらしく、篠原からの返事は無いけど…


いつもの事だから、書斎に足を踏み入れる事への抵抗はほとんど無かった。


無言のまま、コーヒーを置く。


「お前、もう帰ってイイぞ」


それから数秒して、パソコンに視線を遣ったままの篠原がそう言い、カップに手を伸ばした。


「わかりました。では、原稿を下さい」


2月15日の夜の出来事は、あたしの人生最大の失態だったけど…


「……わかってるよ」


あの時から篠原が素直に原稿を渡してくれるようになった事で、それも少しだけ報われた気がする。


< 22 / 77 >

この作品をシェア

pagetop