曖昧ショコラ【短】
「あ……」


篠原の住むマンションに着いてエントランスに入ると、ちょうどロックを解除してドアを潜る彼の姿が見えた。


あたしの声に気付いたらしい篠原が、ゆっくりと振り返る。


視界を占める綺麗な顔に、一瞬時間が止まった気がした。


ガタンと音を立てて閉まったドアの向こうにいる篠原が、数歩分戻って来る。


「ボーッとしてんじゃねぇ」


その言葉で、あたしの為に自動ドアのセンサーが反応する所まで戻って来てくれたのだと気付いて、慌てて足を踏み出した。


篠原はあたしがドアを潜り抜けたのを確認すると、さっさとエレベーターに乗り込んだ。


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