曖昧ショコラ【短】
篠原の後に続いて部屋に入ったものの、何となくそれ以上先に進む事が出来なくて、玄関で足を止めた。


「先生、あの……」


「原稿なら書斎のデスクにある」


それは暗に、『自分で取りに行け』と言う事なのだろう。


「……わかりました。お邪魔します」


リビングに入った篠原を視界の端に捕らえながら靴を脱ぎ、玄関から程近い部屋のドアを開けた。


本棚に囲まれたこの部屋には何度も入っているのに、最近は玄関先やリビングで用件を済ませる事が多かったから、懐かしくも思えてしまう。


そんな事を考えながら茶封筒を手にした時、華奢な箱が視界に入った。


< 58 / 77 >

この作品をシェア

pagetop