幸せの在処

傘なんか差し出すから。


俺のことを見つけて立ち止まるから。


俺は…。



冷たくなった体を、心を、温めてほしかった。


彼女を後ろから抱きしめた時、慰めてほしいという気持ちばかり溢れてきて…。


そんな資格ないのに。


決意が揺らぐ。


こんなにも弱い人間だ。


目の前の温かさに手を伸ばしたい。


伸ばしていいのか?本当に?


「私を…置いていくの?」


頭に響く声。


伸ばしかけた手を止める。


ダメだ。


俺だけ…幸せになるなんて。



決して望んではダメだ。



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