月とドーナツ【短編】
初めてまともに見た奴の顔は、とても悲しい目をしていた

『コタロー…、俺の言うことよく聞いて、実は…』




お前、何言ってんの?

僕は奴が話す言葉の意味が分かんなかった

いや、意味は分かる
ただ、僕が理解をしたくないのだ

奴の話では彼女はずっと悪い病気を持っていると言うこと

そして、今日、悪化して倒れてしまった事

もしかすると
このまま
ダメかも
しれないと言うこと

なあ?ダメってなんだよ
ダメとか言うなよ

だって、彼女はお前の事をアイシテルんだろ?

正直、犬の僕にはイマイチ、『アイシテル』って意味がよくわかんないけれど、彼女があんなに優しい声で言うんだから、凄くいい事なんだろ?

しっかりしろよ
お前がそんなんでどうするよ

何でそんな悲しい目をするんだよ

お前がそんなだと、こっちまでおかしくなるだろ

あーどうしたら、この気持ち伝わるんだろ
どうしたら、奴に僕の気持ちが…

取り敢えず、奴の頬を舐めた

少し髭が伸びてヤツの頬は痛っかったけど

兎に角、舐めた


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