REALWORLD
ふざけて言っているのかな、と思ったから顔を上げた。
すると、思った以上に真剣で思った以上に近くに向井先輩の顔があって。
……嘘なんかつけない、そう感じた。
「…『‘嫌い’って感情は‘好き’に最も近い感情だよ、横山奏』」
私は再び傷口に目を落とし、丁寧に包帯を巻いていく。
「初めてここに来て、先輩と話した日。先輩が私に言った言葉ですよ」
包帯を巻き終え、先輩の腕からそっと手を離した。
「あんまりこういうことはしてほしくないです」
「今度からは場所変えるよ」
「そういう公的なことを言ったのではなくて」
私的な感情です一一…
言いそうになった思いを慌てて飲み込んだ。