REALWORLD

ふざけて言っているのかな、と思ったから顔を上げた。


すると、思った以上に真剣で思った以上に近くに向井先輩の顔があって。


……嘘なんかつけない、そう感じた。


「…『‘嫌い’って感情は‘好き’に最も近い感情だよ、横山奏』」


私は再び傷口に目を落とし、丁寧に包帯を巻いていく。


「初めてここに来て、先輩と話した日。先輩が私に言った言葉ですよ」


包帯を巻き終え、先輩の腕からそっと手を離した。


「あんまりこういうことはしてほしくないです」


「今度からは場所変えるよ」


「そういう公的なことを言ったのではなくて」


私的な感情です一一…


言いそうになった思いを慌てて飲み込んだ。
< 15 / 20 >

この作品をシェア

pagetop