REALWORLD
何を言おうとした?


動揺で唇が震えた。


「奏?」


ああ、呼ばないで。


こんなときに限って、そんなふうに優しく呼んだりしないで。


どうしていいか分からなくなったから、本能的にその場から去ろうとしてドアノブに手をかける。


「奏」


「……はい」


「また明日」


振り向くと、部屋の奥の席に座っている姿が見えた。

そこは俗に言う『会長席』。


にっこり不敵に微笑むのは、会長がご満悦な証拠。


…遊ばれた?


ちょっといらっときたので、わざとらしく呼んでやった。


「………お疲れ様です、向井会長」


せめてもの反抗、向井先輩は余裕の笑みをたたえただけで、何も言わなかった。
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