REALWORLD

「向井先輩、そろそろ出番ですよ」


振り向くとすぐ近くに向井先輩の顔があった。


……誤解しないで頂きたい。


私だってヒト科の女子、しかも思春期だ。


だからいくら嫌いとは言え、そこまで近づかれると心臓が非常に煩い。


「…名前」


向井先輩の形の良い唇が動く。


『ゆ・う・す・け』


ステージ側で、司会者が話す声がする。


「言ってみ?」


向井先輩が私の唇に、手を伸ばしかけたそのとき一…


『生徒会長挨拶』


「じゃ、いってきまーす」


向井先輩はふわりと私から離れて、ステージ上に出ていった。


………はあ。


何だか分からないが、ひどく心がざわついた。


掻き乱すだけ掻き乱していなくなる。


「………ズルイヒト。」
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