REALWORLD

原稿なんてほとんど見ずに済ませてしまった。


「だから言っただろ?」


私は目も合わせずに「さすがですね」と褒めた。


「ご褒美は?」


「はい?」


「ごほうび。」


にっこり微笑むこの胡散臭い男を、誰か私の目の前から消してくれないものか。


職務をこなして、何故『ご褒美』?


ぶん殴ってやろうかな、なんて物騒なことを考えてしまう。


「名前で呼んでくれないか」


どうしてそんなにも名前にこだわるのか。


名前だろうが、名字だろうが、さして変わりはないはずだ。


「…呼んではくれない、か」


私の沈黙をそのように受け取ったらしい。


何だか妙な罪悪感。


悪いことは何もしていないと言うのに。


……精一杯の譲歩をしよう。


「奏でいいです」
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