狼さまと少女
「…あ、」

少し離れた草むらから顔を出したのは、銀色の狼。鋭い眼光をそのままに、こちらにゆっくりと歩いてくる。
恐怖は感じなかった。
何故だか懐かしいと思った。

「…貴方は、」

狼の鼻先が頬に当たる。
黒い目はとても澄んでいる。

思わず見とれていると、不意に狼が離れた。

「娘、」

低い落ち着いた声につられてそちらを見ると、一人の青年がいた。
紺色の着物を纏った端正な顔立ちの男性。 銀色の髪はかすかな陽に照らされ輝いている。
金色の瞳は狼以上に鋭い。
ただただ、美しいと思った。


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