狼さまと少女

目の前の男性に見とれていると、彼は私の方へ近づき膝を折る。
すっと右手を私の頬にやり、こちらを見詰めたまま動かない。

何も言えず金色の瞳を見る。
彼の瞳に映る間抜けな私が見えた。

しばらくそうしていたかと思えば、左手で私の前髪を上げ額に唇を寄せた。
温かいそれに今起こったことを悟る。
状況に付いていけない私を置いて、両手を離した。
金色の青年は私の体を持ち上げ横抱きにすると歩き出した。銀色の狼も後ろに付いてくる。

「、どちらに行かれるのですか」

山の奥深くへと入って行く青年に尋ねる。その足取りに迷いはない。
やっぱり、彼がこの山の神様なのだろうか。
「…少し眠っていろ」

彼は質問に答えず、金色の瞳を私に向けて言った。
その言葉につられてか、だんだん意識が沈んでいく。

「……幸(ゆき)、」

完全に意識が沈む前に聞こえたのは、優しい声で囁かれた私の名前だった。

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