狼さまと少女
第1話
山の奥深く、人里とは理の違う場所。
青年が一歩踏み出すと、境界を越えたことにより辺りの空気ががらりと変わる。
遠くを見ようと目を凝らしても先は見えない程広い。どこか遠くの滝から水が流れ落ちる音が聞こてくる。
その中に築かれた屋敷の扉が開かれ主の帰りを迎えた。
「千歳(ちとせ)様!お帰りなさいませ」
「ああ」
千歳と呼ばれた金色の鋭い目が印象的な青年は、目的の部屋まで真っ直ぐ歩く。
そんな千歳の腰程の背丈しかない子供が小さな足で懸命に彼の後を追って行く。
子供の頭からは白い獣の耳が生え、耳と同じ色の尾まで付いている。主の帰りが嬉しいのか、白い尾はぶんぶん揺れている。
-とそこで、子供は漸く主が抱えている人物に気づいた。
山に入る前に巫女様に整えられた煌びやかな装束を身に纏う幸(ゆき)という名の少女だった。