狼さまと少女

「その娘はもしかして…」
「…白(しろ)」

立ち止まった千歳に名前を呼ばれた白は、耳と一緒にぴしと姿勢を伸ばした。
緊張の中に歓喜を滲ませている白を見下ろした千歳は無表情で命じる。

「こいつは何も知らない。…お前達で世話してやってくれ」

金色の目に何の感情も映さずそう言った千歳は、幸を抱えたまま奥へと去っていった。
そんな主の後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた白は、何もない斜め後ろの空間に向かって声をかけた。

「鈴(すず)出てこい」
「は~い。白、なんか用?」
「千歳様が先程命じられただろう。あの少女の世話係だ」
「え~」

空間から現れた白そっくりの子供は嫌そうに口を尖らせている。
白そっくりと言っても、鈴は性別は女性に分類されるし何より彼女は黒い獣耳と尾を持っている。
そんな鈴は白に抗議の声を上げている。

「白だけで十分じゃん」
「…千歳様はお前達と仰ったんだぞ。主に逆らう気か」
「まさか。こ~んなに真面目な鈴ちゃんが逆らうなんてあるはずがないですよ!」
「白々しいな」
「ふふん。…でもさあ、わたし初めて見たんだけど」
「何が」
「千歳様が嫁さん連れてくるなんてさ。…あの子に何かあったりする?」
「何言ってるんだお前は。あるわけないだろう。」

あの少女は何も知らないのに。
ぽつりと白から出された言葉に鈴は眉を寄せた。

< 7 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop