別の手を選んでも(短編)
 
 新しい環境になじむのに、大変だったのは、私だけじゃなかったんだ。

 お母さんも。

 最初はがんばっていたんだけれど、社宅の人間関係とかにつまずいたみたいで、いつもお母さんはイライラしていた。しょっちゅう、お父さんとけんかして、八つ当たりしていた。

 以前の社宅は、みんな、仲が良かったのに、ここは違ったんだ。

 離婚して、実家に帰るとか言い出して、実際、家を出たりもした。

 遼に相談したかったけれど、親のことだし、仲が良かった両親を知っているから、いえなくて・・・結局、陸に相談してた。



 気がつくと、陸はそばにいて・・・。

 私の不安や悩みに気がついて、心配してくれたんだ。

 以前は、遼がそうやって、私を心配してくれてた。

 だから、そうやって心配されることに違和感を感じなくて、気がつくと、陸に頼っていったんだ。



 でも・・・好きな気持ちは遼だったんだ。

 本当だよ。いつもいつも会いたいって思ってた。

 遼がいたのなら、私は今、どうしていただろうって思ったりもした。



 どんどん変わる私の環境。

 ・・・結局、お母さんとお父さんは離婚はしなかったけれど、社宅はでて、マンションを買った。



 もう、お父さんが転勤したとしても単身赴任で、新しい家から私たちがでることはない。

 だから、遼のいるあの場所にも帰ることはないんだ。

 真新しい部屋で、そう思ったことを今でも憶えている。



 遼に引越ししたことも教えなかった。

 もう会えないのなら・・・そう思ったことも憶えている。



 つながっていた糸が、どんどん細くなっていく。

 それは私が選んだこと。

  
< 13 / 33 >

この作品をシェア

pagetop