別の手を選んでも(短編)
新しい環境になじむのに、大変だったのは、私だけじゃなかったんだ。
お母さんも。
最初はがんばっていたんだけれど、社宅の人間関係とかにつまずいたみたいで、いつもお母さんはイライラしていた。しょっちゅう、お父さんとけんかして、八つ当たりしていた。
以前の社宅は、みんな、仲が良かったのに、ここは違ったんだ。
離婚して、実家に帰るとか言い出して、実際、家を出たりもした。
遼に相談したかったけれど、親のことだし、仲が良かった両親を知っているから、いえなくて・・・結局、陸に相談してた。
気がつくと、陸はそばにいて・・・。
私の不安や悩みに気がついて、心配してくれたんだ。
以前は、遼がそうやって、私を心配してくれてた。
だから、そうやって心配されることに違和感を感じなくて、気がつくと、陸に頼っていったんだ。
でも・・・好きな気持ちは遼だったんだ。
本当だよ。いつもいつも会いたいって思ってた。
遼がいたのなら、私は今、どうしていただろうって思ったりもした。
どんどん変わる私の環境。
・・・結局、お母さんとお父さんは離婚はしなかったけれど、社宅はでて、マンションを買った。
もう、お父さんが転勤したとしても単身赴任で、新しい家から私たちがでることはない。
だから、遼のいるあの場所にも帰ることはないんだ。
真新しい部屋で、そう思ったことを今でも憶えている。
遼に引越ししたことも教えなかった。
もう会えないのなら・・・そう思ったことも憶えている。
つながっていた糸が、どんどん細くなっていく。
それは私が選んだこと。