別の手を選んでも(短編)
「はじめまして。

 おれ、相原陸っていうの。陸でいいよ。

 よろしくね?」



 いって、にっこりと笑った陸の第一印象は、軽そうだった。

 知り合っていくうちにそうじゃないってわかっていくんだけれど。
 


「・・・はい。どうも、よろしくです」

「びっくりしたでしょ? 

 ちゃっちゃと委員決めなんて。まだ、右も左も、みんなの名前もわかんないっていうのにね。

 もうちょっと、北山せんせ、きぃつかってもいいと思うんだけどさ。

 ま、気を使うとかそういうことが全然出来ないから、35歳独身、彼女奪われ歴一年、いい感じで付き合ってた英語の川村先生を、横から掻っ攫われちゃったんだよね」

「そ、そうなんだ」



 よく事情がわからないから、苦笑い。

 けど・・・北山先生・・・かわいそうかも。



「北山に、同情なんていらないって。

 それより、受験もあるっていうのに、この時期に転入ってけっこう珍しいね」

「うん。父親の転勤なんだ。単身赴任は、お父さんがかわいそうっていうから」



 本当は転勤になんてついてきたくなかった。

 ずっとずっと、あの場所にいたかったんだ。

 居心地のいい、大好きな人がいるあの場所に。

 

 
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