お姫様に花束を

エンジンがかかり、車がゆっくり動き出す。

俺は黙ったまま窓越しに城を見つめる。

門番以外、誰も見えない城。


だんだん小さくなっていく城。


……俺が静かに城から視線をずらそうとした、その時だった。


「……カノン……」


いつの間に外に出てきたのか、カノンは門番の横でこちらをじっと見つめていた。

……だんだんと小さくなっていく彼女の姿。



……酔っ払いを助けたところから、全ては始まった。

麦茶に感動され……

翌日、お礼がしたいと言われ。

一緒にコロッケも食べたっけ。

……俺のバーに来て、彼女は突然泣き始めて。

パパラッチに見つかって、俺が城に来て……

……カノンの苦しみも知った。



……俺には雲の上のような存在だったのに。

いつの間にか俺は王女様に……いや、カノンに恋をしていて……


……その気持ちは気付かないうちにどんどん膨らんでいた。

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