お姫様に花束を

「今日は仕事が立て込んでるからお見送りはできない、とおっしゃってたんですけどね」


運転席でウェルスさんが言う。


「やっぱり最後、一目でいいからあなたを見たかったんでしょうね」


ウェルスさんが優しく微笑んだのがバックミラー越しに見えた。


「……カノン様はリオン様と出会われてから本当にお変わりになりました。
ロイ様が亡くなられてからのカノン様は本当に見ていてこちらまで苦しくなる程でした」


……そうか。

ウェルスさんはそんなカノンをずっと見てきたのか……。


「……カノン様から本当の笑顔を引き出してくださったリオン様には本当に感謝しています。
……本当なら、カノン様の幸せを願いたいところですが……立場上、甘いことばかりを言ってはいられません」

「……分かってますよ」


いくら強く思っていても……どうしようもないことはある。


「……俺とカノンは天と地ほどの差がある。
あそこでああやって出会ったことが奇跡なぐらいですよ。
だから……いいんです。
これが本来あるべき姿なんです」

「リオン様……」


これで……いいんだ。

俺は柔らかい背もたれにボフッと体重を預けた……。

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