お姫様に花束を
「……何が……正しいんでしょうね」
「ウェルスさん……?」
運転席から小さな呟きが聞こえ、俺は聞き返す。
「……執事としては失格かもしれませんが……私には何が正しいのか、もうさっぱり分かりません」
ウェルスさんは小さく息を吐く。
「私はカノン様がお生まれになってから21年、教育係兼執事としてあの方に仕えております。
様々なことがありました。
……特にロイ様が亡くなられた後のカノン様の非嘆に暮れた表情は……忘れることができません。
……その時、私はいつか必ずこの方に幸せになっていただきたいと強く思いました」
ウェルスさんはバックミラー越しにチラリと俺を見た。
「ロイ様が亡くなられた後の王室での生活はカノン様にとっては地獄だったに違いありません。
人前では平静を装っておられましたが……まだ高校生だったカノン様に重く辛い現実がのしかかったのです。
……そんなカノン様に光を与えてくださったのが、リオン様……あなたです」
俺はウェルスさんの話にじっと耳を傾けた。
「リオン様といるカノン様は本当にお幸せそうで……。
私はそんなカノン様を見て、内心とても嬉しかったのです。
……ですが、今……私はこうしてカノン様とリオン様を引き裂くお手伝いをしている。
これは……本当に正しい行いなのでしょうか……」
……赤信号で車が止まり、車内に静けさが漂う。
分からない。
……何が正しいのかなんて。
そんなの……誰にも分からない。