お姫様に花束を
――カノンの部屋から出てきたエリックは城の出口に向かって歩いていた。
ウェルスはエリックを見送るために彼の後をついてきていた。
「……どういうおつもりですか?」
「ん?何が?」
ウェルスの質問に、さっきまでカノンに向けていた真剣な表情はどこへやら、いつもの飄々とした感じで答えた。
「あんなことを仰られたらカノン様が混乱されるのは分かっておいでで?」
「もちろん」
「……今、カノン様は非常に微妙な立場にいらっしゃいます。
もし、これ以上に何か起こせば……」
「分かってるよ。そんなこと。
下手したらカノンの王位継承も危ぶまれる」
「ならどうして……!」
エリックはピタリと足を止めた。
ウェルスもそれにつられるように歩みを止める。
「カノンには大事なものが欠けている。
正直、今のカノンが王位を継承したところでこの国に明るい未来があるとは思えない」
「エリック様……あなた何てことを……!」
「別にカノンを貶してるわけじゃないよ。
俺だってアイツの力を信じてる。
あれだけ国民を愛しているカノンなら……カノンにしかできない国作りができるはずだ」
「それなら……」
「……だからこそ、カノンには大事なものを見つけてもらいたい」
エリックはそう言うとフッと小さく口元を緩めた。
ウェルスはいまいち納得できないような顔をした。
「大丈夫だよ、ウェルス。
君は心配性だね」
「……心配性になったのはカノン様にお仕えしてからです」
「ははっ!
カノンは昔から活発だったからね。
よく城を抜け出してロイも心配してたな」
エリックは亡くなった友人を思い浮かべながら微笑んだ。
「……エリック様とロイ様とカノン様は三人兄妹のようでしたからね」
「そうかなー。
そう言ってもらえると嬉しいな。
ロイは大事な親友だし、カノンは大事な妹のような存在だからね。
まぁ、でも……」
エリックは仲の良かったミースト兄妹を思い浮かべた。
「本当の兄妹には敵わないけどね」
ロイの分も……カノンを見守ってやろう。
エリックは心の中でそう思った。