お姫様に花束を


俺達はゆっくりと町の中へと足を踏み入れる。


中に入れば入るほど、この町がのどかであることを知らされた。


俺が住んでいるようなところでは見たこともないほど豊かな自然。


こんな町があったのか……。


「……これ……」


カノンはとある木の前で足を止めた。

そして、木の幹をそっと撫でた。


「桜の木……?」


カノンが幹に触れながらそう呟く。


少し離れたところに立っていた看板に気づいた俺は、近づいていってその看板の文字を読んだ。


「『ナツメザクラ並木』……。
……ナツメザクラって確か……」

「ナツメ町周辺にしか生息しない……いえ、生息できない珍しい桜の品種よ」


カノンがナツメザクラの木を見上げながらそう答える。


「これだけたくさんあったら……きっと春にはお花見をする人もたくさんいるんでしょうね」

「……ナツメザクラの特徴って……確か、綺麗なハート形の花びら……だったよな」


一度、何かで見たことがある。

型をとったんじゃないかと思わせるほど綺麗なハートの形をしていた。


「お前さん達、詳しいな」


突然、背後から声が聞こえた。


俺達は慌てて振り返る。


すると……そこに立っていたのは、おじいさんだった。


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