お姫様に花束を
「……昔はよく若いモンが自然観察に来たもんだ。
この町には他の地域にはない珍しい植物が生息してるからのう。
……じゃが、都市部が発展していくにつれてそういう若モンは少なくなった。
みんな、自然なんかよりテレビやゲームの方に興味を持つようになった。
……気づいたら、この町の観光客はほとんどいなくなってしまったんじゃ」
そんな……。
おじいさんは寂しそうな表情でそう言った。
「自然……」
カノンがナツメザクラの木を見上げながらそう小さく呟いた。
「……カノン?」
「え……あ、ううん。
何でもない……」
「……カノン?
お前さん、カノンという名前なのかい?」
……はっ!
しまった……!
思わずカノンの名前を呼んでしまった……。
……バレた。
……今度こそ絶対に……
「奇遇じゃのう。
ウチの孫もカノンという名前なんじゃよ」
……おじいさんの口から思ってもみなかった言葉が出て、俺達はポカンとした。
「まぁ、この国では珍しい名前じゃないから……」
「セーフだったな……」
まぁ……とりあえず、よかった……。
「お前さんは何ていうんじゃ?」
「あ、俺ですか?
俺はリオンです」
「そうか、リオンか。
わしはゲンティウス。
ゲンさんと呼んでくれるかの」
ゲンさんはほっほっほっと楽しそうに笑った。